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元バーガールに囲われる私

目が覚めるとこんなものが部屋の片隅に置いてあった。

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私は絶対に中身は映画「チャイルドプレイ」のチャッキーだと思った。

彼女がとうとう私を仕留める気になったのだと思った。

私は天を仰いで十字こそ切らなかったが、
「死ぬ前に酒が呑みたい」と願った。
この期に及んでもバーフライだった。

すると彼女がバスルームから出てきた、そして私に抱き着いて言う、

「ハッピーバースデー!!」

そうだった、

私の44歳の誕生日だったのだ。

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箱の中にはアコースティックギターが入っていた。
ノーブランドだがそんなことは問題ではない。

彼女は人の言ったことをいつも忘れる、もしくは聞いていない。
しかしいつだったか私がたった一度だけ「ギターが欲しいな」と言った。

それを憶えていたということだ。


嬉しいプレゼントだ。

値段はいくらかは訊かない。
どこで買ったかも訊かない。

パタヤに来ることで楽器を弾くことを辞めた。
その代わりに書くことを始めた。

どちらも自分の内側から出てくるものを形にするための媒介だ。

私はこれからは書くこと一本でいこうかと思っていた。
私の初期衝動、ロックやパンクを言葉に変えて吐き出そうと思っていた。

しかしこの44歳の誕生日にギターが私の手に戻ってきた。

「音楽」が私に帰ってきたのだ。

弾き続けろ、転がり続けろ、ということだ。

私はそういう因果律の中にいる、ということだ。


私はエレキギター、しかもパワーコードしか弾けない。
しかもダウン弾き一辺倒だ。
真のパンクの弾き方しかできない。

このプレゼントを機にアコースティックギターでローポジションのコードを覚えよう。



「私は今日と明日をデイオフにした、ラン島に行くぞ!」

彼女はどうやら私の誕生日の為に計画を立てていたようだ。

去年の私の誕生日の時にはまだ私たちは付き合っていなかった。

私が彼女のバーに行った時に、彼女はバーの冷蔵庫からケーキを取り出した。
私の為に用意しておいてくれたのだ。

そうやって客とバーガールの関係から少しづつ変化していった。

そして現在に至る。

ギターをプレゼントされるまでに至る、というわけだ。


パタヤのそれは「疑似恋愛」という人がいる。

たしかに金銭を介して始まる関係がほとんどだ、
しかしそこはただの始まりであって、その後どう転ぶかは2人次第だ。

バーガールも客も人間なのだから。

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前回に私の元同僚とその彼女とラン島に行った時もそうだった、
何故か私たちはラン島に行く前はファランフードを食べる。

なぜだかはわからない。

タイ料理大好きな2人だが、ラン島に行く前はファランフードだ。
多分、普段やらないことをしてみたいからだろう。

そしてやはり食後に「満腹だけれど空腹」になった。

これでいい、いつも通りだ。

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バイクタクシーでピアまで行った。

休暇なので船着き場にはたくさんの人がいた。
タイ人がとても多かった。

私はいつもセブンイレブンで酔い止めの薬を買う。
今回も買って搭乗前に呑んだ。

しかし、ファランフードで消化吸収が邪魔されたのか、効き目がなかった。

船上で私は終始無言で真っ青な顔をしていた。
あと数分ラン島への到着が遅かったら、間違いなく吐いていただろう。

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ソンテウの中でもまだ私は船酔いしていた。

目的のサマエビーチに這う這うの体で到着した。

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彼女が予約していたホテルには小さいながらもプライベートビーチがあった。

私は部屋で30分ほど寝て体力を回復することにした。


目を覚ますと気分はすっかりよくなっていた。

彼女は新しい水着に着替えていた。
私も水着に着替えてビーチに行くことにした。

ビーチに着いた私たちはホテル専用のビーチチェアに座った。

良い場所だった、しかし天気が一気に悪くなってきた。
太陽がすっかり雲に隠れてしまった。

寒さを感じた私は海から上がった。
ビーチチェアに座り持ってきた本を読むことにした。

彼女は自分の写真を撮りに岩場のほうへ行った。


持ってきた本は既に9割が既読だったのですぐに読み終えた。

読み終わった私は少し考えた。

私が元バーガールを囲っている、と言う人がいる。

それは決して間違いではない。

しかし、誕生日にギターをプレゼントされて泊るホテル代も払ってもらって、
この後に行く夕食もレンタルバイク代も彼女が払ってくれた。

なんだか私が元バーガールに囲われているような気がしてきた。

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悪天候により海から早めに上がった私たちはバイクを借りて町に出た。

ムーガタ屋を見つけたのでバイクを止めて入った。

私はビールが呑みたくて死にそうだった、
彼女は腹が減って死にそうだった。

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彼女は髪型を変えてから雰囲気も変わった。

肌は黒に近いくらい焼けている。
そしてこの髪型、南米のレディーボーイに見える。

これは私には嬉しいことだ。

私の最初のレディーボーイとの出会いはブラジルに住んでいた時だ。
褐色の肌に豹のような肢体を持つエキゾチックなレディーボーイだった。

私はバンコクのテーメーの外にいるようなレディーボーイに用はないし、
彼女たちも私に用はないだろう。

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それからは定番のイサーン音楽を演奏するバーへ行った。

どの曲もパタヤで毎日聴いているものだ、
それでも飽きない。

イサーン音楽が流れるとイサーンの人たちが踊りだす、
私はそれを見ることが好きだ。

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イサーン出身ではない彼女も踊りだす。

イサーン音楽のリズムはスカに似ている。
裏打ちを多用するからだろうか。

部屋でスコットランドのケルティックスカの曲を流していたら、
「イサーン音楽と同じ」と彼女が言った。



私はビールを12本呑んだ、
禁酒中の彼女は呑まない代わりにひたすら食べた。

帰りは彼女の運転でホテルに帰った。

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私はパタヤに住み始めて丁度1年になる。
彼女ときちんと付き合い始めて10か月くらいだ。

私は彼女が出来たからパタヤに移住したわけではない。
住み始めてすぐに彼女が出来てしまったのだ。

最初の頃はかなり悩んだ。

これから悠々自適な生活が始まる、
と思った矢先に部屋に彼女が転がり込んできた。

それから今まで大変なことばかりだ。

いつまで続くかわからない、
一先ずこのまま流れにまかせることにした。

もし別れることがあったら、当分彼女は欲しくない。

私は過去にいろんな人種と付き合ってきたけれど、
タイ人の彼女ほど疲労して辟易したことはない。

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翌朝はホテルの朝食ビュッフェを食べた。
タイ料理とファランフードがテーブルにたくさんあった。

それから借りていたバイクで眺めの良い場所を探した。

ラン島の道はアップダウンが激しい、
借りたバイクはブレーキの調子が悪かった。

離れた島で事故をして怪我をすると大変なので私は慎重に運転した。

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遥か向こうにはパタヤの街が見えた。

私がずっと探し求めていた場所、パタヤ。

伊達や酔狂でこの「世界で最も堕ちた街」に住んでいるわけではない。

片足だけ突っ込んでいつでも昼の世界に戻る、そんなやりかたはしない。

この街と一蓮托生、覚悟のレベルではなく覚悟の桁が違う。

私は大多数と同じ服を着なかったし同じ行動をしなかった、
だから常識ぶった連中に叩きのめされた。

私は見たことや感じたことを真っすぐに話した、
だから欺瞞に満ちた連中に口をふさがれた。

私は連中の嘘を暴いた、
だから連中は私をキチガイ扱いした。

そうやって私は居場所をなくした。

そうやって何年も世界をさまよった。

そしてやっとパタヤを見つけた。

私が本当に私らしくいられる場所、
それは世間で忌み嫌われる職業の人たちがいる場所。

そして世界で最もレディーボーイが輝く場所。

それは調子っぱずれの私の調子にぴったり合う場所。



「異端であれ」

それが私の座右の銘だ。

パタヤでなら私はそうやって生きていける。


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コメント

お誕生日おめでとうございます

拝読させていただいております。
いつもまぶしく、時に感慨深く綴られたブログに感謝の気持を込めて。ご健康とさらなる飛躍をお祈りしております。

Re: 元バーガールに囲われる私

お祝いの言葉、ありがとうございます。
気がつけば44年もこの世にいます。

まだ始めたばかりの素人ブログです。
書くことに関しても初心者です。
読みにくい箇所などあると思いますがマイペースで続けていこうと思います。

これからもよろしくお願いします。

No title

丁寧なご返信をいただき恐縮です。

文章は時々不思議な力を持つことがあると思います。
Seisさんの文章からも時折、不思議な力を感じます。
そんな文節を見つけた時は幸せな気分になれます。

これからも楽しみにしております。
素敵な一年になりますように。
 

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